日本最大の流通グループの一つであった西武(西友)のストアブランドであった「無印良品」は、国内でのチェーン展開によって急激に拡大しながらも、2000年に在庫問題で経営危機に陥った。良品計画は、外部専門委員会を設置し、ブランドの根本的なところから見直し、「これでいい」というモノのある生活そのものの考え方を提案するブランドとして、商品を始め、あらゆるタッチポイントをリニューアルし、ブランドの復活に成功した。
コアバリュー「これでいい」
Core Value »This’ll Do Nicely«
自信に満ちた「これでいい」
「わけあって、安い。」―無印良品のスタートは、このコピーに象徴される合理的なシンプルさに基づいていた。しかし、時代とともにこの意味合いが「豊かな低コスト、賢い低価格」に変化していったように、リ・ブランディングに際して新たなコア・バリュー=核となる考え方を導き出す必要があった。
そこで生まれたのが、「これがいい」ではなく「これでいい」という発想である。消費者が「これがいい」と思って選ぶスーパーブランドほどではないにしても、「これで十分にいい」と納得できる商品という意味である。「で」には多少の妥協が含まれるかもしれない。しかし、「で」のレベルを上げることによって満足感を高め、自信に満ちた「これでいい」を実現する。それこそ、改革を目指す無印良品の新しいビジョンにふさわしいものであった。これに従って、約7,000アイテムにのぼる商品を徹底的に磨き直し、新しい無印良品を実現していった。
デザインしない「究極のデザイン」
90年代中頃から、消費者の意識は、はっきりと二極化していった。一つは斬新なデザインの高価なブランドを求める方向、もう一つは極限まで安いものを求める方向である。無印良品はそのどちらでもなかった。生産プロセスやデザインの簡略化で支持された無印良品だったが、ただ省略しただけでは魅力的な商品を生み出すのには限界があった。商品の魅力低下による割引販売の増加も、業績悪化の一因となっていた。もっとひとつ一つのものの本質を探り、触れるだけで生活意識が鼓舞されるような創造的な省略こそが求められているのではないか。「省略」というよりも、むしろデザインしないデザイン、つまり「究極のデザイン」とでも呼ぶべきもの。それこそが、無印良品が辿り着いた答えであった。
ブランドプロモーション(ブランドコンセプトを象徴する広告表現)
Brand Promotion Advertising Presentation Symbolising Brand Concept
リ・ブランディング後の広告
2002年にアートディレクターが原研哉氏に引き継がれて以降、無印良品の広告は以前より一層ミニマムなイメージで、考え方を表現したものになった。無駄を徹底して省略したシンプルな商品群たちをノーデザインと考えず、完成度を磨いた究極のデザインと考える。誕生25年を経た無印良品の新たな姿勢を最も顕著に表明しているのが、2003年から年始に掲載されている新聞広告である。
2003年新聞広告「無印良品の未来」
第一弾のビジュアルのテーマは「地平線」。ボリビアのウユニ塩湖とモンゴルの平原で撮影した映像を使用し、何もないけれど全てがあるというメッセージが託されている。しかしそれは、原氏曰く「発信されたメッセージであるというよりも、受け手の無印良品に対する思いやイメージを受け入れる器としての広告」である。写真の他には、キャッチフレーズでありシンボルマークでもある無印良品のロゴタイプを入れただけ。簡潔な表現の中に、日常の本質を静かに見つめる無印良品の視点が込められている。
2003年新聞広告 「無印良品の未来」
2004年新聞広告「無印良品の家」
2004年からは、「家」をテーマに広告を展開している。7,000品目にのぼる無印良品の製品を集積すると、そこにはおのずと「住まいの形」が見えてくる。衣料・生活・食品などの多様なアイテムを合理的に編集することで、無印良品は「住まい」となる。広告ではアフリカの風土が生み出した素朴な家をビジュアルに選び、今回もキャッチフレーズは「無印良品 家」と入れただけ。いかによりよく住まうか。住宅プロジェクトの本格的な始動と併せて、この基本的な問いへの思索を促している。
2004年新聞広告「無印良品の家」
2005年新聞広告「茶室と無印良品」
無印良品の簡素なデザインが生まれた背景には、日本古来の侘び寂びの精神が息づいている。年始広告の第3弾。日本の美意識の源流ともいえる茶室を素材にしたコラボレーションである。写真は戦乱の世に疲れ後半生は茶の湯の世界にいそしんだ足利義政の別荘、国宝慈照寺「同仁斎」。茶室の源流であり、今日言われる「和室」のはじまりとなった空間である。凛と張りつめた空気の真ん中に、ぽつんと置かれた無印良品の白磁の茶碗。これを、シンプルさゆえに無限の可能性を発揮でき得るひとつの「見立て」と表現する。「あらゆる食卓への対応を考慮した果ての簡潔さを体現」しているという。確かに、障子の格子や畳の縁などで構成されるそぎ落とされた美は、無印良品の思想とも相通じるものがある。光と陰を強調するモノクローム写真が効果的。
2005年新聞広告「茶室と無印良品」
2006年新聞広告「しぜんとこうなりました」
2006年版の広告は、初めて商品に重点を置いたものになった。背もたれの角度と使用している素材が同じベッドと椅子。最も心地の良い背もたれの角度、そして家具に最も適した素材を探って行くうちに、「しぜんとこうなりました」。人々の暮らしを見つめ、その暮らしがもう少し心地よく楽しくなるための工夫をデザインしたのが無印良品の商品である。そして、これらを実際の生活の中で並べて置いたとき、さりげない呼応が調和を生み出す。無印良品の商品は、いくつかを組み合わせても違和感なくすんなり馴染んでくれる。多様なデザインがあふれる現代では、とても貴重でかつ大切なことである。そのほかに、自分だけの印のつけられる傘、Tシャツを干すときに首回りが伸びないようくぼみをつけたハンガーなど。使い手が無意識に望んでいることをカタチにすると「しぜんとこうなりました」という商品が、日々続々と生まれている。そんな無印良品の商品の特性を最も生かした形でシンプルに紹介する広告は、人々を魅了し無印良品のデザインへ共感、理解を促している。
2006年新聞広告「しぜんとこうなりました」
国内店舗
2006年2月末現在、直営店と商品供給を合わせた店舗数は約298店舗、今後は年に20店ずつ新店舗を開店していく予定。平均売り場面積は1,000平方メートルの水準で維持していくが、3,300平方メートル級の店舗もいくつかある。その一つ、有楽町店には「Meal MUJI」、「無印良品のめがね」、「花良品」、「無印良品 木の家」 などがあり、現在の無印良品のすべての業態が一度に見られる旗艦店である。ほかには仕様変更商品や旧年の季節商品などを低価格で提供する「ファクトリーアウトレット」が全国に3店舗ある。また、駅の構内で東日本キヨスクが展開している「無印良品comKIOSK」や全国にあるコンビニエンスストアのファミリーマートでのコーナー展開、年々売り上げを増やしているネット販売事業など、店舗がない地域でも無印良品の商品を購入できるようにきめ細かい販売チャネルを用意している。
カフェ・ミール事業
2001年から始まったカフェ・ミール事業は、現在「Cafe MUJI 」と「Meal MUJI」が各3店舗ずつ、計6店舗が運営されている。コンセプトは粗食ならぬ「素食」。有機野菜や契約農家から取り寄せた大豆など食材にとことんこだわり、素材自体のおいしさを最大限に生かしたヘルシー・メニューを提供している。無印良品の思想を反映しているためセルフサービスシステムだが、味・ボリュームの割にリーズナブルな価格が好評で、今後も少しずつ店舗を増やしていく予定。
無印良品 有楽町「Meal MUJI」
フラワー事業
フラワー事業は1996年に「花良(ハナヨシ)」というブランド名で八王子店からスタートした。その後、2001年に(株)花良品を設立。産地直送システムを採用し、鮮度保証(一部のみ)や交換・返金制度など、随所に無印良品らしい消費者への配慮がみられる。現在は有楽町店をはじめとして15店舗に広がっている。
花良品 有楽町
メガネ事業
生活者のメガネに対する不満点(価格の不明瞭さ等)が非常に多いことから、無印良品として価格の分かりやすさを追求し、またパーツの共有化による自分好みの組み合わせ(カスタマイズ)と、パーツ交換により長く利用できる(サステナブル)という、これまでのメガネ店に無い独自の切り口で好評を得ている。2002年に有楽町店と難波店でスタート。フレームやテンプル、また色や素材を自由に組み合わせて約40,000通りから自分だけのオリジナルめがねがつくれる。価格は10,000円からとリーズナブルなところもリピーターを生んでいる。
無印良品のめがね
環境への取り組み
Action on Nature and The Environment
環境商品としての無印良品
無印良品は、そのコンセプトに従ってシンプルで自分の生き方やパーソナリティを引き出すようなアイテムを生み出してきた。その前提の一つに、自然や環境とともに持続的に生きるということがある。そのために、当初より無印良品の商品開発と生産の根底には、
素材の選択=様々な理由ではじかれた素材も活かすということ。
工程の見直し=できるだけ工数を減らし簡略化すること。
包装の簡略化=できるだけパッケージの無駄を省くこと。
という3つのポリシーが貫かれてきた。
環境に関わるEXFORMATION(問いかけ)
良品計画では、環境や社会に対する考え方を自らのWebサイトで明確に情報を投げかけ、店頭でのコミュニケーション、出版活動を通して積極的に顧客や社会に発信してきた。店頭では、レジ袋を持つのではなく、マイバッグの携帯をプロモーションするために、オリジナルの布製バッグを安価で発売している。また、出版活動では、モノと人との関係を問いかけた絵本などを編集出版し、無印良品の姿勢を出版文化の形成というかたちで、ごく自然に投げかけている。これらの手法は、ただINFORMATION=情報を押し付けるのではなく、むしろ、人々に問いかけ、知らなかったことに気付いてもらうという、EXFORMATIONという姿勢に基づいている。
それらの原則になっているのが、「地球とともに生きる5原則」である。
全ての活動において国内外法令を遵守します。
人体や環境に深刻な影響をもたらすと懸念される物質については使用制限を定め、使用する場合は情報を公開します。
天然の素材についてはトレーザビリティの実施に努めます。
モジュール統一、分別可能、包装簡略化などを取り入れ、廃棄物の削減を図ります。
良品と関わる全ての人々とのコミュニケーションを充実させます。
「地球とともに生きる5原則」
無印良品を運営する良品計画は、以下のような良品ビジョン」を打ち出している。良品計画は、これらのビジョンについて、「良品には、あらかじめ用意された正解はない。しかし、自らが問いかければ、無限の可能性が見えてくる。」というコメントを行っている。この問いかけこそが、無印良品の世界をより深く豊かにし、そして固有の価値が高めれれていく源泉であると確信できる。
「良品ビジョン」
企業理念
良品価値の探究
成長の良循環
最良のパートナーシップ
行動基準
カスタマ−レスポンスの徹底
地球大の発想と行動
地域コミュニティーと共に栄える
誠実で、しかも正直であれ
全てにコミュニケーションを
店頭での声がけの徹底
マイバッグを買ったお客様や持参したお客さまに「袋がいらない場合はお申し付け下さい。」というメッセージと「ありがとうございます。」という気持が伝わる応対をするように心掛けられている。
自分の印がつけられる布製マイバッグ
レジ袋のかわりに気軽に使える生活に密着したB5, A4, A3の3つのサイズで50円/70円/100円と安価。自由に自分だけの印をつけることができる。売り場に40種類のスタンプが用意されている。
絵本「もしも、モノが話したら。」
人とモノとの関係に目を向け、「これでいい」という生活の在り方を問いかけるatelier GRIZOU による美しく楽しい絵本。表紙カバーは、バナナの紙を使用。