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01理念とアイデンティティ経営

アイデンティティ経営のエリクソンモデル

心理学者 E・H・エリクソンは、アイデンティティを2つのアイデンティティに分けて説明している。1つ目のアイデンティティは、理念と自分の行動が一致していることを自己認識している状態。それを、自我アイデンティティと呼んでいる。もう一つのアイデンティティは、その理念と行動の一致を、他者が認知理解し受け入れている状態。人格アイデンティティと呼んでいる。アイデンティティ経営とは、それら2つが両立している経営のことをさす。つまり、従業員が自社の理念をよく理解し、誇りに思い、組織がそのとおりに動いている状態であり、同時に、顧客や社会といった外部の人々がそのことを理解・共感し、持続的によい経営結果を生み出している状態である。

個性の源泉となる偉大なる理念

組織の個性は、この経営理念によって織りなされる。理念によって裏付けられた個性は、 時がたとうとも色あせることはない。その時々の経営環境やトップがかわろうと揺るぎないアイデンティティを形づくる。理念は、人々の道しるべとして、ひらめきの源泉として時代を超えて生き続ける。今のブランディングにもっとも重要なことがらは、このような誰もがうなずくような、偉大な理念の形成である。この土台がない限り、コーポレートブランディングにいくら投資しようとも、成果は一過性のものになってしまう。経営理念は、「価値観 Core Value」と「企業目的Core Purpose」によって構成されている。価値観は、永遠に失われることのない魂であり、時代を超えた生きる原則、組織のDNAである。企業目的は、組織の存在理由であり、手に届かないがキラキラと輝く星であり、変革を促す役割をする。

自我アイデンティティと人格的アイデンティティ

出典:「企業とデザインシステム CI」 CoCoMAS委員会

理念の棚卸しから浸透まで

理念は、創造するものではない。発見するものである。「何を理念とすべきか」ではなく、「自分が熱くなれる、自分をささげるに足る価値ある理念とは何なのか?」を自分に問い続けることである。多くの従業員を巻き込みながら自分たち組織に潜在する価値の棚卸し(valueinventry)を行い「、自分たちが大切にしてきた価値」、「なくしたい価値」、「新しく付加すべき価値」というように価値要素を仕分ける。そのあと自分たちにふさわしい価値の創造(valuecreation)を行い、共有化(value sharing)を図る。多くの場合、それらのプロセスを踏みながら、最終的には強いトップの意志と宣言によって理念開発が進められる。ブランディングの初期段階では、このような根源的な理念の再確認、再構築が求められる。

価値の棚卸し

価値の棚卸し

理念再構築プロセス

理念再構築プロセス

新しいブランディングは、次の7つの方程式を解くことによって深められる。本書は、それぞれの事例をこの7つの視点からとらえようとしている。

  • 01 理念とアイデンティティ経営
  • 02 ポジショニングと棲み分け優位
  • 03 人を動かす表現とコミュニケーション
  • 04 製品・サービスのマーチャンダイジング
  • 05 市民参加と社会マーケティング
  • 06 事業構造とブランド体系
  • 07 インナーブランディングとマネジメント

Case study

  • 01 スカンジナビア航空
  • 02 アウディ
  • 03 ウィルクハーン
  • 04 無印良品
  • 05 デンマーク公的機関
  • 06 南チロル
  • 07 オランダ軍
  • 08 英国図書館
  • 09 アドビ
  • 10 ダンスクバンク・グループ
  • 11 ヒュンダイカード
  • 12 au
  • 13 ヒューマングループ

Scandinavian airlines

スカンジナビアらしさの本質
北欧3国が共同で運行する60年の歴史をもつ航空会社は、競争激化の中で経営難に直面。そのため、ターゲットをこれまでのビジネスマンから、ファミリー層にシフト、大々的なブランドリニューアルに踏み切った。そのコアになるコンセプトが「It’s a Scandinavian.」であり、スカンジナビアらしさの本質を未来の顧客の視点から見直すことであった。それは、「もてなし」であり、「ヤコブセンの椅子」であり、「食や音楽」であり、「新鮮な水と空気」であった。
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スカンジナビア航空

Audi

世界トップへのブランディング・リーダーシップ
アウディは、中長期経営計画においてブランディングを重要な戦略課題として位置づけ、まずはフォルクスワーゲンとの差異化がブランドポテンシャルを高めるという仮説のもと、高級車セグメントへのリポジショニングに着手し成功。次に、自らの資源を改めて分析し世界トップを目指す。「先頭を切る」という新しいミッションのもと、きめ細かな1,000以上のプロジェクトと80ヶ国を網羅するブランドマネジメントシステムが業界のリーダーシップを生もうとしている。
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アウディ

Wilkhahn

商品と企業の2つの次元で新しいブランドコアを
ウィルクハーンは100年の歴史をもち、59ヶ国に展開される世界的なオフィス家具メーカーである。1980年にはウィルクハーンブームという時代を迎えるが、その後競争激化に見舞われ、他社との優位性を喪失。改めてポジショニングを商品ブランドと企業ブランドの2つの次元で見直し、新しいブランドコアとバリューを定義。すべてのタッチポイントに一貫性を与え、商品開発ではデザインコリドーといわれる固有のクライテリアとデザインガイドラインを設定し、リポジショニングに成功した。
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ウィルクハーン

MUJI

日本最大の流通グループの一つであった西武(西友)のストアブランドであった「無印良品」は、国内でのチェーン展開によって急激に拡大しながらも、2000年に在庫問題で経営危機に陥った。良品計画は、外部専門委員会を設置し、ブランドの根本的なところから見直し、「これでいい」というモノのある生活そのものの考え方を提案するブランドとして、商品を始め、あらゆるタッチポイントをリニューアルし、ブランドの復活に成功した。
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無印良品

A coherent national brand for Denmark

王冠をモチーフにした市民のための政府と公共機関
デンマーク公国は540万人の人口をもつ小さな王国であり、産業・文化面において強くて魅力溢れるユニークネスを発揮している。それらを支える、または象徴するようなブランド政策が、デンマーク政府(省庁)や公共サービス機関(鉄道や郵便、図書館や劇場)にある。それはそれぞれの組織が、王冠のモチーフを自由に活用する個性溢れる政府機関のアイデンティティ表現であり、市民による市民のための政府や公共機関の存在を示している。
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デンマーク公的機関

South tyrol

農産物・観光・工業製品にブランド価値を
いまや企業だけでなく、どの地域も激しい競争にさらされている。イタリア北部に位置する南チロル(ボルツアーノ自治県)は、自らの農産物・観光・工業製品に新しい南チロルというアンブレラブランドを冠すると同時に、南チロルのブランド価値を「アルプスと地中海、奔放さと確実性、自然と文明が共生する価値」と定義し、地域の様々な関係者がブランディング活動を推進するという運動へと発展させていった。その結果、市民の共感を獲得し大きな成果を生み出ている。
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南チロル

The Netherlands ministry of Defence

オランダ国は1995年、軍隊への徴兵制を廃止した。それまで国防を存在理由にそれぞれが道を歩んできた陸海空軍が、「世界の自由、解放、安全という共通の目的のために活動する」と自己規定を行っていった。それは歴史的な選択であった。それを契機に、軍は市民から解りやすく開かれた存在としてあるために、あらゆるタッチポイントのあり方を見直し、5万人の組織を啓蒙し、ITによるアイデンティティマネジメントシステムが構築された。
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オランダ軍

The British library

「クールブリタニア」という国家文化政策に基づき、大英博物館から分離された英国図書館を主軸に、いくつかの国立図書館が統合された。英国図書館は、自らを戦略的な国家の知的資源をマネジメントする機関として位置づけ、新しい21世紀の図書館像を提案。ブランディングをプラットホームに、サービス改革の実施とそれを支える内部の意識改革を展開。提供する価値を科学的に測定し自らのブランド価値の向上に努めようとしている。
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英国図書館

Adobe

アドビは、デザインやコミュニケーションの制作現場では欠かすことが出来ない様々なソフトを開発提供している。これらのソフトは常に18ヶ月ごとにシステムのバージョンアップが繰り返され、そのたびにビジュアル表現が変わるため、イメージの拡散とネガティブなイメージを招いていた。2003年以降、Creative Suiteの発表を機に、クリエイティブプロフェショナル層が期待する「精緻・美・願望」をコアにした製品ブランド表現の統合を実施した。
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アドビ

Danske bank group

生活者を支える金融のプロフェッショナル
ダンスクバンクは、3つのデンマークの銀行とノルウエイ、スウェーデンの銀行が合併してできた北欧において最も強大な銀行グループの一つである。合併にともない、店頭ではそのイメージが混乱を招いていた。グループ内の既存価値を洗い直し、それらを補うコンセプトとして「現代の北欧らしさ」、「シンプルであること」が選ばれた。街中で目立ち際立つよりも、金融のプロフェショナルとして生活者を支える黒子的な存在であることが求められた。
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ダンスクバンク・グループ

Hyundai card

韓国のカード市場は既に社会人一人あたり5枚所有という飽和状態にあった。どのカードも横並びで、唯一の差別化要素であった金利すらほとんど差がなかった。そこでヒュンダイカードは、利用場面や対象者に応じてサービスが異なる多様なカードマーチャンダイジングを行なった。また、経営トップの強いリーダーシップにより、イノベーションを核にした社内の意識改革と市場におけるダイナミックなブランドプロモーションを展開、シェアの拡大に成功した。
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ヒュンダイカード

au

日本の携帯電話市場が、NTT(元国営企業)DoCoMoとその他いくつかの新規参入企業によって分割されていた2000年の夏、国内3つの通信会社が合併しauが誕生した。当初低迷していたAuは、改めてブランドプロミスを設定し、au独自のデザインプロジェクトによる商品揃えを展開。サービス揃え、価格設定、店舗チャネルの改革も進み、ブランドへの好感度とシェアの純増率はNTT DoCoMoを大きく引き離しトップを走っている。
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エーユー

Human group

社会人教育・人材紹介派遣・介護ビジネスのヒューマングループは事業が多様化し急成長するなかで、グループ事業全体を統合できる自らの固有の事業ドメインの設定を必要としていた。また市場における強いアイデンティティとブランド価値を高めるために、ブランディングプロジェクトが推進していった。「成長の輪:HumanSelfing」をブランドプロミスにそれぞれのグループ企業の自主性を引き出すようなデザインシステムが導入。Selfingカウンセラープログラムも開発導入された。
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ヒューマングループ