ブランドの一生
前回は、ブランドの語源のお話でしたが、今回は、企業のブランディングの歴史についてのお話です。
「ブランドは無限」
1948年、米国ハロイド社は「ゼログラフィー」という技術を応用した乾式複写機を売り出します。それまで、複写機といえば「青焼き」という湿式のものでしたので、それはもう画期的な商品でした。そして、ハロイド社は社名を「XEROX」に変更します。
その時のトップの有名な言葉に「特許は有限、ブランドは無限。」というものがあります。
せっかく苦労して開発した特許も、何年かすれば効力を失ってしまいますが、ブランドはメンテナンスさえちゃんとしていれば、半永久的に有効だということです。そのXEROXは、英和辞典にも載るようになり、「ゼロックスする」という言葉も出現しました。それから半世紀、XEROXは「ゼログラフィー」という技術を核に、「The Document Company(書類に関わる全てを提供する会社)」という事業領域を示すスローガンのもとに、エクセレントカンパニーとして全世界で活躍していることは皆さんもご存知だと思います。
「Good Design is Good Business」
企業ブランドを経営戦略に持ち込んだ最初の企業は、1956年のIBMといわれています。
今でも正式社名は「インターナショナル・ビジネス・マシーンズ」と長いのですが、時の経営者、トーマス・ワトソンJrは、「自分達の会社をIBMという3文字で呼ぼう。その3文字はブランドネームとして美しくデザインし、これを見ただけで会社の思想や業容が思い浮かぶものにしよう」と宣言します。
時代の先端をいくコンピュータ会社であるために、最高の製品性能とともに、商品のデザインからショウルーム、オフィスのデザインまでを統合しました。そして1978年から「IBMは機械を売る会社ではない。問題解決(solution)というサービスを売る会社である。」という事業領域の再規定とともに、シンボルはストライプバージョンにリファインされ、ソフト開発への特化とウイットに富んだ企業コミュニケーションと変化していきます。
その時のワトソンJr.の名言があります。「Good Design is Good Business」。
よいデザインは、よいビジネスになる。いつも市場や社会からの「見え方、認識(パーセプション)のされ方」をマネジメントすることが、ブランディングの要諦になるということを説きました。
ブランドに生命を吹き込む。
1990年代初頭、そんなIBMにも陰りが見え出します。1991年は28億ドル、92年は49億ドルの赤字に転落。「ダウンサイジング」といわれる市場構造の変化に巨体がついて行けなくなった結果でした。本社ビル、工場、研究所25ヵ所の不動産売却と約20万人の人員整理が行われました。そして93年、食品メーカーのナビスコ会長であったガースナー氏が会長に就任します。顧客指向の新しい価値創造ができる会社に蘇生させるための「7つのコアプロジェクトと3つの合理化プロジェクト」が展開されます。そのNo.1のコアプロジェクトが「ブランドマネジメント」でした。
情報関連産業の構造変化にともなう企業姿勢に刷新と、世界戦略におけるIBMブランド価値の再構築が大きなテーマになりました。その後の「e-Business」というサービスブランドを軸にした新しいビジネス領域の確立、既存商品ブランドThinkPadの深耕などにより、IBMは、21世紀に入り再びエクセレントカンパニーとして返り咲いたのでした。
再構築の意味。
企業は機械ではなく生命体、「バイオコーポレート」といえます。感覚もあれば意志もある。身体もあれば心も魂もある。生命体である以上、病気にもかかり、やがて成熟し、老いていく。しかし、人間と違うのは、死をのがれるということができるということです。
Designとは、「兆候(Sign)を再構築(De-)する」と書きます。ワトソンJr.が言いたかったことは、「Good Design=うまく時代変化の兆候を読み取り、自らを再構築すること」が、「Good Business」を持続する秘訣、ということだったのではないでしょうか。環境変化に対応するために、自ら立つ場所を見極め、自己改造し、それをメッセージとして発信しつづけること、それがブランディングの目的といえるかも知れません。
今回は、IBMの事例を紹介しましたが、次回は、食品メーカーの事例を満載したいと思います。