Chapter 02
ブランディングパラダイム
Branding Paradigm

デンマーク公的機関

A Coherent National Brand for Denmark

王冠をモチーフにした市民のための政府と公共機関

Pictures from WorldBranding

デンマーク公国は540万人の人口をもつ小さな王国であり、産業・文化面において強くて魅力溢れるユニークネスを発揮している。それらを支える、または象徴するようなブランド政策が、デンマーク政府(省庁)や公共サービス機関(鉄道や郵便、図書館や劇場)にある。それはそれぞれの組織が、王冠のモチーフを自由に活用する個性溢れる政府機関のアイデンティティ表現であり、市民による市民のための政府や公共機関の存在を示している。

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A Coherent National Brand for the Official Denmark

デンマークの国旗
デンマークの国旗
すべてのデンマーク人に使用されている重要な国の象徴。

国家のアイデンティティの歴史

ブランディング計画は国を創り上げられると、歴史は物語る。国旗や国歌、シンボル、慣習を新しく定めるということは、新しいルールの再導入や確立の基礎を創るということである。フランスはフランス革命の後に、アメリカは南北戦争の最中と後にこれを成し遂げた。

今日、シンボルや伝統は、明晰で巧みな一貫した国家のアイデンティティの創造により、ごく自然にかつ明白に見ることができる。

国のイメージ

国家のアイデンティティのある部分は、私たちの日常生活の身近にあるシンボルが基になっている。これらのいくつかのシンボルは国家の象徴的な絵柄であり、国民がよく知っている歴史から、イメージされたものである。伝統的に国の公的機関は、それらのシンボルを特有の国家とつながりがあるというプライドのしるしとして持ち続けている。

民間の会社がより国際的になり、どこのものともわからなくなった今日の混沌とした世界で、公的機関は国家のアイデンティティを持ち続けているものとして、ますます重要になっている。さらに、国家のアイデンティティの強さは、旅行者の数や国内に流れる投資額にインパクトを与えるのである。

デンマークの公的機関

デンマーク公国は人口540万人で、そのうちの180万人は首都コペンハーゲンに住んでいる。小さなサイズの国にしては、国内外において強力な「ブランド」を持っている。デンマーク公的機関の一貫した国家的ブランドを構成しているのは何だろうか。また、それはどのようにしてくまなく全土に行き渡らせているのだろうか。

デンマークの代表的なデザインエージェンシーであるコントラプンクトは、デンマークの公的機関に対して一貫した国家的ブランドを創造するという、このまたとない機会に挑んだ。そしてなおもこれら公的機関のために独創性のあるものを創り続けている。結果としてこれらは、公共部門のブランディングの新しいグローバルスタンダードになる、世界で最もわかりやすい公共のブランドシステムとなっている。

何が国家のアイデンティティの構成要素となるか?
どんなデザインができるか?

国家のアイデンティティはその社会の公的機関を通じて創られる。それら公的機関は4つのグループに大別される。

• 政府機関

その市民や他の国々とかかわる公の窓口として、国家のアイデンティティを示す中心的な役割を担っている。政府機関はすべての省庁、議会、地方公共団体を含む。すべての伝統的、歴史的な国家のシンボルもまた、国の伝統を引き継ぐという意味で重要なものだ。

• 公共機関

郵便局、鉄道や空港のようなものを指す。伝統的にこれらの公共機関は国によって運営されてきたが、過去10年間、民営化される傾向が強くなってきた。しかしながら、これらの機関は未だ社会においてきわめて大切な役割を担っており、なくてはならないもので「国家的ブランド」を継承している最たるものである。

• 文化施設

国立博物館、図書館や劇場など。国家的ブランドは進化、発展し続ける。これら文化施設は市民と外国に対し、国家のアイデンティティをうまく伝えたり広めたりする指導的役割を果たしている。

• 首都—コペンハーゲン

首都や重要な都市は国家的ブランドをサポートする。あなたはもしかしたら「Wonderful Copen-hagen」や「I love New York」、あるいは「the city of cities – Paris」というフレーズを聞いたことがあるかもしれない。我々がこれらの都市のことを考えるとき、それぞれに違った連想が浮かび上がってくるだろう。そしてそれも国家的ブランドに密接に関係している。

デンマークで何がこれら公的機関を結びつけているのか?

王冠!

デンマークの王冠は人々に広く知れ渡っており、デンマークでは大いに尊重されてきた。全世界で最も古い王制のひとつとして、デンマークの王冠は伝統と信頼を象徴している。王冠というシンボルが大変に強烈なシンボルであり、デンマークにとってたくさんの意味があるという点で、これが選ばれたのはごく当然のことだった。他のヨーロッパの国々でも王冠を持っている。そこで、いかにしてデンマークらしく王冠を表すかが難問だった。

王冠をデザインする

デンマークの王冠のデザインは「オープンデザイン」で、しかるべき判断のもとに敬意をはらって使用しさえすればいかようにも使える。王冠の新しいバージョンはデンマーク国立公文書館の紋章コンサルタントの承認を必要とする。ガイドラインは、その主たる外観が5本のブレースと王権の象徴である宝珠(球)、十字架がついているクリスチャン5世の王冠と一致していることだ。 国家のロゴがデザインされるとき、見た目の美しさばかりでなく、その当該機関の活動の範囲までもロゴの中に表現しようという試みがなされた。よって、象徴的な表示を王冠とともにロゴの実際的な形状の中に組み入れられた。 教育省のロゴには王冠とともに開いた本の形を見ることができ、住居・都市整備公団のロゴには王冠と一緒に切妻の形(デンマークの伝統的な屋根の形)が組み込まれていたりする。

公共事業に注力する国家

デンマーク公的機関のブランド展開は、柔軟性のあるサブ・ブランドシステムである。各々の公的機関と地方局はそれぞれ独自の特徴的なアイデンティティとロゴを持っているが、すべてにおいて王冠が中心のテーマとなっている。柔軟なデザインの王冠と各々の公的機関の特徴的なアイデンティティは、各々の公的機関や地方局を市民にとってより関連し、より身近な存在にした。公的機関に人間味が与えられた。

コペンハーゲンのローゼンボルグの城に展示されているクリスチャン5世王の王冠。1670年からこの王冠はデンマークのロイヤルクラウンと制定されている。
デンマークで以前に使われていた小さな紋章のデザイン
コントラプンクトがデザインし直した小さな紋章は、デンマーク国立公文書館を通じて、公式なデザインとして認められており、他の国家施設が使用することが許されている。
クリスチャン5世王の王冠を模して作られた二次元の王冠の図。これは公式のデンマークの王冠
シンボライズされ赤い四角の中に入れられた現代風のデンマーク国家の王冠。コントラプンクトによってデザインされた。
b.

A Coherent National Brand for the Official Denmark

The Crown as Endorser

外務省 1991
国立博物館 1991
デンマーク国有鉄道 1998
文部教育省 1998
デンマーク王立図書館 1994
文化庁 1994
デンマーク郵便局 1993
財務省 1999
デンマーク公式ウェブサイト 2002
都市住宅省 1999
デンマーク王立劇場 1996
王冠デザインの原型

王冠—ブランドアーキテクチュア

デンマーク国家のロゴがデザインされる際、見た目の美しさだけではなく、その公的機関の活動範囲をも特徴的に表そうとされた。デンマーク王立図書館の王冠をデザインするときには、王冠の実際的な形状の中に、図書館に関係ある象徴的な表示を入れた。同じように文部教育省の王冠には開いた本の形を見ることができ、財務省の王冠にはそれとなく鍵穴がデザインされている。

デンマーク公的機関のブランドアーキテクチュア

デンマーク政府
上から:
  • 財務省
  • 文化庁
  • 文部教育省
  • 経済産業省
  • 外務省
サービス機関
上から:
  • デンマーク公安局
  • デンマーク公式ウェブサイト
  • 国立博物館
  • 王立デンマーク劇場
  • デンマーク郵便局
  • デンマーク国有鉄道
  • デンマーク王立図書館
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Ministry of Foreign Affairs

外務省向けには、特別にロゴタイプのためのロゴフェイスがデザインされた。そのロゴフェイスとは、デンマークの伝統的なタイプフェイスを現代的に解釈してデフォルメしたもの。外務省のタイプフェイスは率直でデンマーク的な強さがあり、新たにデザインし直された国家の紋章とよくマッチしている。

デザインし直された国家の紋章はデンマークの旗に合わせて、それとなくデンマークを表現し、赤い長方形の中に組み込まれている。紋章を囲む青い色は外交色の青。

大変機能的なデザインのプログラムにおいては、簡単に使用できるグラフィックの要素を創造し、首尾一貫して使用することが大切だ。外務省の便箋や小冊子はその独特な見覚えのあるグラフィックの要素で視覚的に統一されている。ロゴはいつでも右端に置かれる。

1. 印刷物のスタンダード・ロゴ

印刷物のスタンダード・ロゴ
印刷物の中に使われる外務省のロゴの標準的な使われ方。

2. スタンドサイン

スタンドサイン
新しいデザインの提示に関連して、名称もしくは注意書きとして機能するように作られたスタンド型サイン。

3. ベルリンの北欧大使館

ベルリンの北欧大使館
ベルリンにおける北欧の国々の大使館の建物。

4. レターヘッド

レターヘッド
外務省のレターヘッド。

5. ロゴ

ロゴ
外務省のロゴ。

6. ロゴフェイス

ロゴフェイス
外務省のロゴ用にコントラプンクトがデザインしたロゴフェイス。

7. 紋章の新しいデザインのドラフト

紋章の新しいデザインのドラフト
ライオンを含めた国家の紋章の新しいデザインのドラフト。新しいデンマークの標識のためにエンゲルハードの提案(1908年)の1つがヒントとなっている。

The National Danish Museum

デンマーク国立博物館のビジュアルアイデンティティは、国の伝統が反映されていなくてはいけない。そしてまた、それらを現代の言葉でコミュニケーションすることも必要であった。このことを、王冠とタイポグラフィの歴史的なエレメントをしっかりしたモダンな形式で組み立てたロゴとサインで可能にした。黄色の王冠を囲む赤い四角は王室の古いシンボルを、極めて近代的で実用的なフォームで、表している。

1. バナーサイン

バナーサイン
日本のサインデザインに影響を受け、バナーは、正面を優位的なサインによって保つために舗道のポールに設置された。バナーは特別展示会を促進するためにも使われるダイナミックな媒体だ。

2. スタンディングサイン

スタンディングサイン
飾り付けが必要だった博物館の正面入り口前の中庭。それを解決したのが、高さ3.5メートルの記念御影石。訪問者を歓迎し、表面には博物館のレイアウトが刻まれている。上品で頑丈な材質は重厚感と歴史を物語り、その形とレイアウト図はより近代的な言葉を語っている。

3. 誘導サイン

誘導サイン
誘導サインはプレーンな表面の赤い四角の中で強調され、その他のサインは彫り込むことによってより視覚に訴える表示となっている。標識の赤い四角に方向矢印や絵文字や部署のシンボルが描かれている。

4. ロゴ

ロゴ

5. レターヘッド

レターヘッド
レターヘッドのロゴは、より簡単に描かれている。黒い文字のロゴタイプと赤い四角枠。黒い長方形ではそのページ全体の中で目立ちすぎるため、使われなかった。

6. パンフレット

文献の中に紛れても、ロゴは十分目立つ。

The Royal Danish Library

デンマーク王立図書館は350年以上も前に設立された。その主たる目的は歴史的な文献を収集、収蔵することにあった。図書館のコレクションは研究者やその他の人々にとって利用しやすい。図書館は文化の活発な振興物であり、よって新しい世代の図書館のユーザーを惹きつけている。図書館は大きな展示エリア、コンサートやミーティング、講演用のホールを持ち、大規模なコレクションをディスプレイするに十分なスペースを備えている。

図書館は文化的な財産、研究と現代的なコミュニケーションを伝えると同時に新しいコーポレートアイデンティティを必要としていた。その答えとなったのが現代的古典主義であった。それは、スタイリッシュな王冠と歴史的なタイポグラフィの組み合わせである。また、ロゴはクラシックなヨーロッパの本の背表紙を思わせる。商業主義よりも知性を表現したものになっている。

1. エントランス

エントランス
デンマーク王立図書館の新しいウイングへの入り口。

2. 「黒いダイヤモンド」外観

「黒いダイヤモンド」外観
超近代的で多くの期待を集める「黒いダイヤモンド」と呼ばれる新しいウイングを増築することで、王立図書館は既存のクラシックな外観と新しい建造物の近代的な外観の両方の存続を支えるアイデンティティを必要としていた。

3. バナーサイン

バナーサイン
初めからKB(KGL BIBLIOTEK)の頭文字がロゴのコアな部分を形作り、王立であることを示す王冠が含まれることもはっきりしていた。

4. ロゴ

ロゴ
デザインの基本的エレメントは、ロゴと濃い緑、トレイジャンというタイプフェイス。ロゴには頭文字のKBが入っている。Kは開いた本の形に似ている―図書館の主たるものの視覚化。Bは図書館が王立であるというステイタスを反映して王冠を形作っている。緑色は文学に関連性のある色で、例えば自習室のランプシェードのガラスの色であり、あるいは伝統的なデンマークの試験机のフエルトのカバーの色である。

5. パンフレット

パンフレット
王立図書館では広範な書籍リストから図書館のサービスについてのパンフレットまで、いろいろな種類の出版物を出版している。かつては様々な体裁のものが出されていたが、現在では一貫したブランディングのガイドラインに沿って出版されている。

6. 出版物

出版物
王立図書館の出版物は、出版様式は個々の独自性を持っているものの、首尾一貫した表現になっている。

Post Denmark

1995年にデンマーク郵便局が民営化されたとき、新しいステイタスと戦略で、利用者や周囲とコミュニケーションすることが求められた。伝統とデンマークのアイデンティティと新しいビジネスを発信する目立つロゴが必要とされた。

デンマーク郵便局がオランダの郵便局のデザイン担当だったオージェ・オクセナール教授にアドバイスを依頼したとき、彼はコントラプンクトとオランダのスタジオ・ダンバールとのパートナーシップを提案した。

新しいロゴにはオルデンボルグ家の赤と黄色が特徴的に継続されて使われている。強調される点は王冠をかぶったコーチホルンから「Post」の言葉へと移行されている。このことは、このロゴがビジネス社会のなかで将来起こりうる変化にも対応して生き残れるようにしている。「Post」の4文字は新しいブランドの特性を強めるために特別にデザインされた。

1. サインシステム

サインシステム
サインシステムはサイズと特性において変化の富んだエレメントで作られている。ある郵便局は他の店舗の派手なサインと競うために人目を引かなければならないし、またあるものは古い建物に調和するように落ち着きを残した、もっと控えめなものでなければならない。素材は量産でき、はめ込みや取替えが容易であるため、サインシステムは経済的である。

2. 郵便ポスト

郵便ポスト
上が丸くなったデンマークの郵便ポストは国家の象徴的なものになっており、新しいデザインプログラムと調和している。郵便ポスト上にデザインを保つため、ホルンとPostの文字は分けて記され、4色の色の輪は、はずされている。

3. エントランス

エントランス
アテンションサインに加えて、正面のデザインには、入口を作っている背の高いパネルサインが含まれているプログラムの中には切手の販売機や照明、絵文字も含まれる。

4. ロゴ

ロゴ
王冠をかぶったホルンからなる新しいロゴ。ビジネスエリアを拡大することを象徴する赤と黄色、青、緑の4色の輪に囲まれた単純化された再デザイン。POSTという4文字は、特に新しいブランドの特性を強調するようデザインされた。

5. パンフレット

パンフレット パンフレット
文書において、ロゴは大変目立つ。テキストとレイアウトに実にうまく調和している。

DSB - Danish State Railways

デンマーク国鉄の新しいロゴを観察していると、あるシンボルが浮かんでくる。

それは、これまでの交通に変革を起こした電車が初めて登場したころを思い出させるシンボル、つまり150年の歴史を誇る王冠と翼のついた車輪だ。翼のついた車輪は発展、スピードと旅の夢を象徴している。

>タイポグラフィはDSBにとってアイデンティティを形成する重要なものである。なぜなら、利用客とのコミュニケーションの大半がサイン、列車、駅、案内、時刻表や広告にある文字によるものだからだ。利用客は、名称やロゴがなくても、DSBであることを認識できる。

新しくより機能的デザインのこのロゴで、DSBが技術よりも人間にフォーカスしている会社であることを印象づける。

1. コペンハーゲン中央駅

コペンハーゲン中央駅
コペンハーゲン中央駅の入ってくる貨物列車。車両に描かれた文字はコントラプンクトによる。

2. メトロポリタンエリアの列車の前面

メトロポリタンエリアの列車の前面
コペンハーゲン郊外で運行する列車、「S-Tog」の前面。

3. 列車「S-Tog」のフロントサイン

列車「S-Tog」のフロントサイン
翼のついた車輪には王冠のついたものと、ついてないものが描かれている。

4. ロゴ

ロゴ
翼のついた車輪は現代的なデザインが要求された。結果的に翼をひとつ付けた楕円の車輪となった。その単純な形から、様々な想像をかきたてる。

5. サインシステム

サインシステム
パリやロンドンの地下鉄と同じような濃紺をバックに白抜きの文字を使ったサイン。背景よりも文字が目立つことから読みやすくなっている。さらに、濃い色のサインはDSBの様々な駅の建物によくマッチしている。

6. タイプフェイス

タイプフェイス
タイプフェイス
タイプフェイスはそれまでDSBが使っていたヘルベティカよりもずっと読みやすくなっている。長く上下に伸びたストローク、オープンシェイプ、ブラントアングル、平行になっていないラインで構成されている。
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