Chapter 02
ブランディングパラダイム
Branding Paradigm

ダンスクバンク・グループ

Danske Bank Group

生活者を支える金融のプロフェッショナル

Pictures from WorldBranding

ダンスクバンクは、3つのデンマークの銀行とノルウエイ、スウェーデンの銀行が合併してできた北欧において最も強大な銀行グループの一つである。

合併にともない、店頭ではそのイメージが混乱を招いていた。グループ内の既存価値を洗い直し、それらを補うコンセプトとして「現代の北欧らしさ」、「シンプルであること」が選ばれた。街中で目立ち際立つよりも、金融のプロフェショナルとして生活者を支える黒子的な存在であることが求められた。

a.

Branding of The Danske Bank Group

ブランド構築プロジェクトの新基準

自らの急成長と合併・統合を経て、デンマーク最大の金融機関となったダンスクバンク・グループは、1990年代終盤になっていくつもの問題に直面することになった。この成長により、グループの存在意義そのものが混乱に見舞われたのである。このため経営陣はグループ内の様々な業務を整理し、組織化するためのブランディングプロジェクトを進めることにした。プロジェクトの目的は、市場におけるダンスクバンク・グループの位置づけを明確にし、よく計画されたブランドアーキテクチャを創り上げることだった。

このプロジェクトは、デンマークにおいて最も有名なデザインエージェンシーの一つ、コントラプンクトが担った。コントラプンクトは、ダンスクバンク・グループと密接な関係のもと、ダンスクバンクブランドのリポジショニングのための明確なコンセプトを打ち出し、ユニークなネーミングシステムとビジュアルアイデンティティを創り上げた。それは、全ての支店と全ての組織に対して一つの統一されたイメージを与えると同時に、グループ内の全ての企業が独自の特徴を持つことを可能にした。

このブランド構築プロジェクトは、国際的にも注目を集め、北欧における最も成功したコーポレートブランディングプロジェクトの一例として挙げられ、一流企業や機関のブランディングに新しい基準をもたらすものとなった。

市場における集中的な合併・統合

北欧の銀行業界は、1980年代から1990年代にかけて集中的な合併・統合を経験した。今日のダンスクバンクは、Den Danske Bank af 1871、Kjobenhavns HandelsbankとProvinsbankenの3つのデンマークの銀行による1990年の合併によってでき、その後ノルウェーのFokus Bank、スウェーデンのOstgota Enskilda Bankと、RealDanmark抵当銀行との合併により、さらに巨大化した。

今日、ダンスクバンク・グループは、300万人以上の個人顧客、および、北欧の企業・産業・公共機関などの多数の法人顧客と取引を行っている。約2万人の従業員、デンマーク国内最多の支店数、そして、ノルウェーにおける60以上の支店、スウェーデンにおける約50の支店を抱え、グループは北欧各国において最も力のある金融グループのひとつとなっている。

ブランディングプロジェクトが始まったのは、ダンスクバンクがFokus BankとOstgota Enskilda Bankとの合併を行った後のことだ。当時、グループは統一性に欠け、時代遅れに見えた。市場における優位性を獲得するためにグループ全体としてひとつのブランドを確立することに決め、調和の取れた近代的なブランドイメージを作ることを目指した。

既存の価値を見出す

ブランディングプロジェクトは、まずグループ内に既存の価値を見つけることからスタートした。ダンスクバンク・グループは、ブランディングの基礎となり、また金融市場での彼らのポジショニングに役立つ価値を高めることに力を注いだ。ダンスクバンクの既存の価値、それは誠実さ、責務、利用しやすさ、専門的知識、価値創造である。そして、それらの価値はグループ内でも、また対外的にも反映させなくてはならない。つまりダンスクバンクの実体とブランドイメージとが明確に一致しなければならなかった。

コミュニケーションを補うものとして、見出されたコアコンセプトは、シンプルであること。このコンセプトはダンスクバンクのビジュアルアイデンティティの開発において、デザイン基準としての機能するために開発された。それまでグループのために用いられていた全てのデザイン要素はシンプルとはかけ離れたものだった。このコンセプトを決めることで、ブランドの一貫性と統一性がより堅固なものになった。

現代的な北欧らしい表現

市場における位置づけと全体的なブランドアーキテクチュアが決まると、デザイン計画が始められた。

ダンスクバンクとコントラプンクトは、大変高い目標を掲げて共同作業にあたった。このプロジェクトでいうブランドとは、焦点をあてられたダンスクバンク・グループの全てを指している。そして、細部に至るまで徹底的、かつ慎重に創り上げられた。

ダンスクバンク・グループの主要な活動範囲が北欧だったので、北欧を基盤とすることが重要だった。さらに、紙幣・小切手・クレジットカードといった様々な支払い形態からインスピレーションを受け、水平なラインを特徴としたデザインの流れが決められた。

その結果選ばれたのが、今後何年にもわたってダンスクバンク・グループを象徴することになる、シンプルで北欧的、かつ、現代的な正統派のデザインだ。

ブランドは認知されなければならない

2000年の秋、ダンスクバンクは1日にして新しい装いに変わった。

各支店では、全ての印刷物が1日で新しいデザインのものに変えられた。そして、その日から全ての顧客は銀行から新しいデザインの書簡を受け取ることになった。支店のサインも1ヶ月で全て新しくなった。「あなたの得意なことはあなたが―銀行業務は我々が」というスローガンのもと、銀行の広告や広報資料・キャンペーン広告といった全てのコミュニケーションは、それまでの古いデザインから新しく現代的で一貫したブランドへと転換した。

新しいデザインは、まずデンマークで紹介され、続いて、スウェーデンとノルウェーでも使われるようになった。

しかし、新しいデザインと新しいコミュニケーションだけでは、強いブランドを創ることは出来ない。ダンスクバンクで働く人々もまた、新しいブランドが何を約束しているかをよく理解し、それに基づいて行動しなくてはならない。そうして、ダンスクバンクの価値は、銀行業務の存続、発展、そして、質の向上のための具体的な指針手段となった。その価値が、経営陣と従業員の両者にとって実際の行動基準となっているのである。(ダンスクバンクの価値はある基準ポイントを通過して実施されている。したがってその価値は、経営陣と従業員の両者において有効な管理ツールとして機能している。)また、それはダンスクバンクブランドがグループ内でも、また対外的にも認知されることを促した。

ダンスクバンクが何者であるか知られている

ブランディングにより、今日ダンスクバンクは、自らの真髄や業務を明確に反映した姿をシンプルに分かりやすく伝えている。

ンスクバンクのコミュニケーションは強化され、そのメッセージも明確、かつ、一貫したものになった。組織全体の社風も強化され、今日の従業員はダンスクバンクの理解をさらに深め、自分たちの仕事を理解している。また新入行員は、ダンスクバンクのより積極的かつ明確なイメージのもと、採用されている。そして、ダンスクバンクの現在の顧客、そして潜在的な顧客も、ダンスクバンク・グループとは何かを認知している。

Brand Architecture

革新的なブランド体系

ブランディングプロジェクトにて掲げた価値とコンセプトを基に、ダンスクバンクはグループ内の多数の企業群や商品群を体系化するべくブランドアーキテクチュアを確立した。スウェーデンとノルウェーにおける地元との密着性を維持しつつも、グループが活動する全ての市場を網羅する単一の存在を作り上げることがきわめて重要だった。 考案された革新的で柔軟なブランドアーキテクチュアにより、様々な企業名をひとつのコンセプトの中に収めることができた。企業名や商品名が違っても、デザインと色はすべて統一されている。 柔軟なブランドアーキテクチュアや視覚的表現は時代を超えて重用される。デザインに変更を加えることなく、企業名や商品名は置き換えることができるし、新しい企業や商品を加えることも簡単にできる。 ダンスクバンクグループのために50種類以上のロゴがデザインされ、さらに、それぞれについて4つのバリエーションがある。すなわち、ブランドアーキテクチュアは200以上のロゴによって構成されている。

ブランド構築はすべてのシーンで確認できる
コーポレーション用には縦長のもの、国別には横長のものを使用

ダンスクバンク グループ ── ブランドアーキテクチュア

マスターブランド
リテール銀行ブランド
デンマーク
スウェーデン
ノルウェー
アイルランド
部門名
デンマーク
ノルウェー
アイルランド
商品サービス名
b.

Typography

ダンスク ― 独自の書体

ダンスクバンク・グループのために「Danske」と呼ばれる独自のタイポグラフィが開発された。このタイポグラフィは、グループの存在を主張する重要な要素であり、競合から自社を視覚的に差別化する有効で簡潔な方法である。

「Danske」は、シンプル、かつ横長のデザインで、また、ひかえめで流行にとらわれない印象を与えるため、デザイン計画のコンセプトとも合致している。

このタイポグラフィは、ダンスクバンク・グループ全体で使用されており、視覚的にもグループの一貫性と統一性を実現する。このタイポグラフィを常時使用することにより、ダンスクバンクの全ての印刷されたメッセージがブランドを主張することになり、洗練された方法でグループのブランドを定着させることができる。また、ダンスクバンクのロゴを用いなくても、このタイポグラフィを使用することでブランドを主張することができる。

写真による識別

ダンスクバンクのために、独自の、また、グループ内共通のスタイルが写真においても構築された。

写真のスタイルは、内容がすぐ理解できる、シンプルで図式的なものが選ばれた。写真は、情景や感情を詳細に忠実に描写する。淡々とした北欧の色調で統一することによって、ダンスクバンクのアイデンティティは強調され、すべての制作物はダンスクバンクのものと識別される。

この写真のスタイルを維持していくために、撮影マニュアルが作られた。

水平な線:繰り返し使われるデザイン要素

ダンスクバンクのデザインやコミュニケーションの大部分に、特徴的なデザイン要素として、細い水平な線が使用されている。水平なラインを特徴としたデザインを強調するためだけではなく、ダンスクバンクグループのメッセージの、題と副題とを分ける場面で線が使われている。この細い線は、ダンスクバンクグループのコミュニケーションにおいて、極めて積極的かつ機能的要素として用いられている。この細い線は、ダンスクバンクのメッセージに独自性と一貫性を提供するものとなっている。

伝統的な色使い

ダンスクバンク・グループのグループカラーは青である。新しいビジュアルアイデンティティの開発においての重要な一面として、顧客と従業員の既存の好意を維持することが挙げられる。最終的に選ばれた青色は、以前よりは明るく現代的な色調になったものの、従来からのダンスクバンクのビジュアルアイデンティティと比較的近いものだった。

新しい青色は、ダンスクバンク・グループの全てのロゴに使用され、全てのデザイン計画に用いられている。特に、ダンスクバンクの個人顧客に対するコミュニケーションに用いられる。法人顧客に対しては、グレーが採用された。

独特のピクチャースタイルを使用した様々なダンスクバンクの出版物

印刷に使われる異なった青い色調

c.

Touch point

Printed Media

印刷メディアにおける簡潔性と機能性

ダンスクバンクは、事務用品、書類、雑誌、出版物、パンフレットといった全ての印刷物についてのガイドラインを設けた。

銀行の印刷制度に課せられた数々の技術的制約を考慮に入れながら、膨大な量の印刷物を統一されたデザインにすることは、非常に難しく大きな挑戦であった

また、全ての顧客向け資料の合理化と実用性の向上がもうひとつの必須課題であった。ダンスクバンクの提供するサービスを顧客が理解し、利用しやすいように、印刷物がより簡潔で親しみやすいものになるよう、検討が重ねられた。

青色で印刷されたものは個人顧客向け、対してグレーのものは法人顧客向け

ダンスクバンクのステーショナリーの例

クレジットカードに表わされた長方形のダンスクバンクのロゴマーク

Signage

デンマークにおける最も大規模なサイン計画

ダンスクバンク・グループの重要な要素として、デンマーク、スウェーデン、および、ノルウェーにある全支店のサインがある。他では使われていない独自の素材を使用し、シンプルでひかえめなサインが作り出された。

サイン計画は、現金自動支払機やレシート用ゴミ箱といったものに至るまで、広範囲に及んだ。

このサイン計画と平行して、全支店の正面ウィンドーのディスプレイにも、新しいコンセプトが導入された。顧客が支店内に入るまでに目にとまるもの全てが、このサイン計画の重要な部分を担った。

サインには、他では使われていないような独自の素材が選ばれた。独自性とひかえめな印象を与えるべく、また、時を経ても品質が変わらないように、ガラスを、鉄とアルミと組み合わせて使うことにしたのである。

ダンスクバンクのサイン計画は、ガラスを使用することにより、正統派の看板の伝統に沿いつつも、現代的な表現を兼ね備えることができた。ガラスの透明性を利用してダンスクバンクのロゴを色つきガラスと透明ガラスの二つに分けて、支店の正面入り口を飾っている。こうすることで、ロゴは銀行の建物や通りの景観のなかに自然に組み込まれた。

Interior Design

伝統的な銀行の支店から現代的なバンキング・ストアへ

ダンスクバンクは、現代的な銀行のあり方を視覚的にも空間的にも再定義した。ダンスクバンク・グループの各支店には、全く新しいコンセプトのインテリアデザインが採用され、国境や支店組織を超えて機能するバンキング・ストアとなった。また、銀行と顧客の関係をより良いものにすることに焦点が当てられた。顧客とその顧客の応対をする銀行員との間でコミュニケーションが強化されるようにと詳細にまで気を配られた、開放的な環境が創り出された。

この結果、何よりも各支店のなかに変化の兆しが現れた。各支店において新しい取り組みが導入されていった。顧客がダンスクバンクのあらゆる業務についての情報を自ら収集できるスペースが提供された。また、従来から使われていた顧客カウンターに替わって、サービスポイントと呼ばれる個別のテーブルが設置され、ダンスクバンクの接客担当者は、顧客の立場となって応対することができるようになった。

新しいインテリアデザインのコンセプトのなかでもうひとつ重要なことは、新しくコンサルティングテーブルを設けたことである。銀行員がカウンター越しに顧客と応対する従来の方式に替わって、リラックスしながら信頼関係を持って話しができる空間が生まれた。

インテリアの素材はデザインプログラムの安定した雰囲気を特徴づける、均等なラインを形作っている。
顧客を応対する部屋の、会話が外に漏れないようにするためのすりガラスの装飾にコーポレートパターンが使われている。
コーポレートパターンはロゴの形状を基本に作られている。

Electronic Media

デザインマニュアルのコンピュータ管理―画期的なツール

デザインコンセプトの開発とダンスクバンクのWebサイトの展開に加えて、デザインマニュアルをコンピュータで管理することにした。マニュアルには、ダンスクバンク・グループのデザイン計画に関わる全てのガイドラインがまとめられている。 従業員や協力関係にあるパートナーたちは、マニュアルをコンピュータ管理することにより、手軽に最新のデザインを取り出すことができ、将来的にもいつでも望ましいデザインを利用することができる。 ダンスクバンクのコンピュータ管理されたデザインマニュアルは、その機能性と高い実用性によって2001年のデンマークデザイン賞を受賞し、注目を集めた。つまり、このマニュアルは、ダンスクバンクの新しいデザイン展開における重要なきっかけとしての役割も果たしたのである。 今日まで、ダンスクバンクの視覚的表現は一貫しており、またデザインの背景にあるダンスクバンク・グループの企業ブランドとしての考えとも一致している。

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