日本の携帯電話市場が、NTT(元国営企業)DoCoMoとその他いくつかの新規参入企業によって分割されていた2000年の夏、国内3つの通信会社が合併しauが誕生した。当初低迷していたauは、改めてブランドプロミスを設定し、au独自のデザインプロジェクトによる商品揃えを展開。サービス揃え、価格設定、店舗チャネルの改革も進み、ブランドへの好感度とシェアの純増率はNTT DoCoMoを大きく引き離しトップを走っている。
携帯電話ブランドauの誕生
現代の日本では、携帯電話は仕事はもちろん、交友関係を築くのにも欠かせない必携ツールとなっている。2006年11月現在の累計契約数は約9500万台。携帯電話を使用しない年齢の人口を差し引くと、1人1台以上持つ時代である。しかし、その歴史はまだ20年足らずで、NTTが自動車電話を経て本格的に携帯電話のサービスを開始した1987年が始点となる。翌88年にトヨタ系の日本移動通信(IDO)、89年からは京セラ系のセルラー各社(DDI系)が順次サービスを開始し、携帯電話市場が一気に活気づいた。その後、94年に端末売り切り制度が開始したのを皮切りに、デジタルホン、ツーカーデジタルホン、ツーカー各社の参入により、購入価格、月次料金が一気に下がった。多社乱立状態の中で各社はシェアの確保に苦しみ、唯一安心感で支持されたNTTの独走状態が続いていた。新たな動きがあったのが99年、業績が低迷していたデジタルホンとツーカーデジタルホンがJ-PHONEブランドに統一。2000年7月にはIDOとセルラー各社の統一ブランドとしてauが誕生した。NTTから既に分離していたNTT DoCoMo、J-PHONEからブランド変更したvodafone、TU-KAと共に、現在の4ブランド時代へと突入したのである。
auの低迷
しかし新たなスタートを切ったものの、auは純減を記録。いきなり苦戦を強いられることになる。当時、携帯電話の競争の主軸は「音声サービス」から「データサービス」へと移りつつあり、携帯電話によってもたらされるエモーショナルな経験が重要視されるようになっていた。しかしauはこういう流れに対応できず、ユーザーが求める商品やサービスを投入することができていなかった。「CMはおもしろいけれど商品はとがりすぎ」といった声が聞こえ、広告のイメージと実際の商品との隔たりも問題として上がってきた。またブランドイメージも、DoCoMoは「信頼できる」、J-PHONEには「ファッショナブル」という評価がある一方、auは魅力的な商品・サービスがない中での「ガク割」導入により、「学生向けで安かろう、悪かろう」のイメージを持たれるようになってしまった。
auの復活のシナリオ
そこで、ブランドの価値を明確化するためにまず使ってもらいたいコアユーザーを、「すでに携帯電話を日常生活のコミュニケーション活動の中に取り入れ、生活をより自分らしく豊かにしたいと思っている人々」に設定。auが提供する価値とパーソナリティ、ブランドプロミスを規定した。また5年間を3フェーズに分けて目標と重点戦略を策定するなどして、auブランドの定義づけを行っていった。具体的には、通信事業として、企業として当然実施すべき基本活動(たとえば安定した通信環境、販売店などでの気持ちのよい対応、ユーザーニーズに応える商品やサービスの提供など)を土台としたうえで、プラスαの活動、つまり、新しくユニークな商品やサービスを他社に先駆けて提供したり、ユーザーに向けて統一した「auらしさ」を発信していった。auの携帯電話を持っているかどうかに関わらず、携帯電話利用者にイメージアップを図り、期待される企業となれるように努力する。そうしてau独自の価値を提供することにより他社との差別化を図り、総合的なブランド力で上回る―というシナリオを作成した。それらすべての集大成として、auブランドを強く訴求していったのである。
auブランドの成長
auのブランドアイデンティティを明確化するプロジェクトがスタートし、ブランド力をより向上させるためデザイン戦略に加え、サービスやプライシング面でも相次いで戦略を仕掛けていった。それらが功を奏し、一時はJ-PHONEの「写メール」効果により業界3位に転落していたauは、2001年末からは次第に人気が復活。2006年には、累計シェアこそNTT DoCoMoが依然として強さを誇っているが、純増契約数は3年連続でauがトップ。「最も満足度が高い携帯電話会社」という評価も勝ち取っている。2006年10月から日本では、番号ポータビリティ制度が導入され、ユーザーは携帯電話番号を変えることなく携帯電話会社を変更できることになる。民間から生まれたauは、この変化を自らの大きな飛躍のチャンスととらえ、かつて公社であったNTTのDoCoMoよりも常に早く先を走ろうとする意思をもって、独自の強いブランドポジションを獲得して行こうとしている。
3社合併によるau誕生
2000年、日本国内の通信3社(KDD,DDI,IDO)の合併により、新しい移動体通信事業が生まれた。それをauというアルファベット2文字のブランドで呼ぶことにした。auは、「access to you」「access to universe」といった言葉の頭文字からとった。(日本語でauを発音すると、「出会う=meet」という意味にもなる。)
auブランディングの基本フレーム
auブランディングは、ターゲットユーザーの分析から始まり、KDDI理念を源泉に、auならではのブランドプロミスを、諸々のドライバー(製品開発、サービス開発、プライシングなど)を通して、全社横断的に一貫性をもって顧客に届けられるように推し進められた。
純増シェアの推移
auブランドの活性化により、一人勝ちをしていたNTT DoCoMoの成長を越え、ユーザーからの期待は高まり続けている。
(2000年6月までは、IDOとDDIセルラーホンの合計を示す。急激な加入者減に直面していた。)
ブランド経験としての端末デザイン
デザインプロジェクトを起点としたauのブランド戦略は、デザインという視点から携帯電話を考え直し、誰もが心のどこかで思っていた「ケータイのカタチ」を具現化するという作業から始まった。デザインを核にauのブランド構築を図ろうとしたのである。それは、単純な技術や価格競争からの脱却を意味した。戦略は大きく分けるとレギュラー製品のデザインとコンセプトデザインという2つのラインから展開していくことになった。
レギュラー製品のデザインマネジメント
それまでレギュラー製品のデザインは携帯電話メーカー各社のインハウスデザイナーに任されており、auのデザインと呼べるものが見えにくくなっていた。その状態を改善するため、商品ラインナップ全体を見渡す役割としてデザイン・ディレクターを起用。メーカーからデザイン提案を受けるのではなく、au側からデザイン戦略をプレゼンテーションし、プロデュース&マネジメントしていくことになったのである。
ブランディングとしてのデザインプロジェクト
また、2001年3月にはauが目指す携帯電話のデザイン指標として、外部デザイナーによるコンセプトデザインの開発に着手した。コンセプトデザインとは聞こえのよい抽象的な言葉やスローガンではなく、コンセプトモデルという具体的なカタチで「au」ブランドが目指すもの、さらにはKDDIブランドが目指す方向性を対外的にだけではなく社員にも提示し、ベクトルを揃えていくためのものであった。さらに、「auブランドとは何かを具体的に示すためのツール」としての役割も担っていた。そしてテーマは「シンプル&モダン」と「クオリティ&ユーモア」が選ばれた。
auブランドが目指すこと
私の生活を楽しく、 豊かにしてくれる 感動を与えてくれる、 私らしさを引き出してくれる
「感動ケータイ。」
デザインプロジェクト製品
(auによるデザイン)
デザインコンセプト= シンプル&モダン/クオリティ&ユーモア
デザインプロジェクトの効果
2003年のINFOBARの発売は、一般消費者はもちろん、デザイン業界などにも大きなセンセーションを巻き起こした。auのイメージは一挙にアップし、他社と比べて「新しいことにチャレンジしている」「個性的」「顧客のニーズをわかっている」などの項目で、より高い評価を受けるようになった。最近では「革新的」「いま旬である」「スタイリッシュ」などの声も多くなり、デザイン雑誌「AXIS」が行った「デザインが強いと感じる企業・ブランド」についてのアンケートでは、日本企業ではソニー、無印良品などに次いで7位に挙げられている。また、ユーザー対象の端末に対する満足度調査でも、他社を大きく引き離して1位となっている。
デザインとブランディング
INFOBARにより、他社差別的なパーセプションを獲得
2004年4月 KDDI実施調査
「AXIS」掲載 auデザインの評価
デザインが強いと感じる企業・ブランド
1位
アップル
Apple Computer
(153)
2位
ソニー
Sony
(13)
3位
バング&オルフセン
Bang & Olufsen
(57)
4位
無印良品
Muji
(36)
5位
日産自動車
Nissan
(27)
6位
ナイキ
Nike
(22)
7位
au/KDDI
au/KDDI
(20)
7位
ホンダ
Honda
(20)
7位
資生堂
Shiseido
(20)
2004年6~7月 株式会社アクシス実施調査 「AXIS」2004年12月号 掲載
端末に対する満足度
端末の総合的な満足度は、auが83%と3キャリア中最も高い
2006年4月 KDDI実施調査
デザインプロジェクト:talby
Design Project: talby
talby(2004年発売)
シンプルでクリーン、そしてモダン。talbyには、見る人が欲しいと思う全てのものが備わっていると同時に、それ以上の余計な何かがあるわけではない。世界的なデザイナー マーク・ニューソン氏による比類のないスーパーフラットデザインは、限りなくスリムで、ポケットに入れるにも首からぶら下げるにも最適。非常に質の高い構造と技術が特徴的で、ソリッド感に溢れている。talbyという名は、彼の好きなSF映画の一つ、「ダーク・スター」(監督:ジョン・カーペンター)の登場人物に由来する。「ものすごく馬鹿げているけど、冷静であくせくしたところがなく、すごくユーモアがあって面白い」という彼がいつも探し求めているキャラクターをテーマにしているという。ビジュアルデザインやサウンドデザインにも独自のこだわりを見せ、大きなストラップホールにフィットする専用ネックストラップも付属している。
デザインプロジェクト:neon
Design Project: neon
neon(2006年発売)
「neonはいわゆるカタチとしてのデザインではなく、存在そのものをデザインする意味で取り組んだ」とデザイナー深澤直人氏は話す。全く何もないところに表示が出るという通常のプロダクトでは有り得ない試みを盛り込んだ点にこそ、重要な意味がある。「その振る舞いというか、見え方がネオンのようだ」と開発時に話していたことが、ネーミングにつながったという。デザイン的にはもうこれ以上そぎ落とすことはできないほど単純でハイデザインなプロダクトであるが、単なるストイックな四角ではなく、「積み木」のようなイメージで、フレンドリーで且つやさしい形を作り込んでいる。その重要な要因が、適度な丸みを持ったコーナーのアールと、陶器のような輝きと質感を持つつややかな色である。また、デザインのみを追い求めたのではなく、非常に高機能なスペックを搭載しているのも特徴の一つ。さらに、家に持って帰って机の上に置いたときに時計として美しく、ミュージックプレーヤーとしてスピーカーにつなげることも想定したデザインや、見た目にはただの平面だけれどタッチにこだわった使い勝手など、持つ人の日常の奥まで考えた新時代の携帯電話である。
プライシングとブランド戦略
Pricing and Brand Strategy
音楽や映像プログラムの配信、ゲーム、ナビなど、他社に先駆けて提供してきたauのサービスを、ユーザーに料金に気兼ねなく使ってもらうため、またauの世界観を存分に知ってもらうために、業界初のデータ通信定額制など画期的なプライス設定に努めてきた。
auはプライシング(価格政策)を、ユーザーがauに加入する動機(トリガー)と、auへのロイヤリティを長期にわたって維持するための重要なブランドドライバーとして位置付けているのである。
2003年から始まった定額制は、そのサービスを価格を気にせずに実感してもらうためのプライシングであったといえる。その他にも、常に顧客と向き合う姿勢の中から生まれた「無期限くりこし」プラン。総合通信企業だからこそできる「au→自宅割」など、auならではの料金プランがある。また「ひとりでも家族割」というコンセプトでの「MY割」では、auに魅力を感じながらも、他社で家族割引を組んでいる人にも気兼ねなくauを経験できるように導入した。
同時にauは、これからのサービスの開発・取り組みのために、ある一定以上の収益を確保することが課題となっていた。値下げ競争に突入して業界全体が疲弊してしまう方向ではなく、ユーザーが納得できる料金体系でかつ健全な収益体制を築くことこそが、新しいサービスへの積極的なチャレンジにつながると考えたのである。
基本料・通話料の割引サービス
無期限くりこし
ユーザーが指定した月額料金プランの中で、その月に使用しなかった通話料は、無期限にくりこされていくサービス。
MY割
2年間継続利用を約束したユーザーは、初年度36.5%、2年度38.0%の基本料金の割引がある。10年度まで継続使用すると、50%割引になる。
年割
契約期間は1年単位で、初年度は基本使用料が15%割引になる。継続すると割引額は年々UPし、最大で基本使用料が35%割引になる。
家族割
家族でそれぞれがau携帯を使用する場合、基本使用料は25%割引。家族間通話は30%割引(指定割を併用すると60%割引)。家族間Cメールは無料。あまった無料通話料をその月のうちに家族で分け合える。
au→自宅割
au携帯電話からKDDI経由の自宅電話に電話をするとき、通話料が50%割引になる。
パケット通信料割引サービス
パケット通信料定額サービス
Eメール通信料とEZweb(インターネット通信)の両方の通信料が、2,000円/月(税込2,100円)からはじまる定額制。どんなに使っても4,200円(税込4,410円)が最高額となる。また1,000円/月(税込1,050円)からはじまる「ダブル定額ライト」もある。
店舗チャンネルとブランド戦略
Shop Channel and Brand Strategy
店舗空間によるau経験
白を基調に、ブランドカラーであるオレンジをアクセントにした店舗デザイン。にぎやかな色が無秩序に溢れた街を歩いていても、auの店舗はすぐ目に留まる。すっきりとしたイメージでありながら、明るさ、元気さ、楽しさが感じられ、つい覗いてみたくなるような印象を与えることに成功している。店内に関しては、清潔感、整理整頓、レイアウト、親しみやすさ、auらしさなどについて頻繁にチェックし、常に気持ちのよいショップ作りを目指す。一方、リロケーション(統合再編計画、移転計画)面でも、ユーザーの動線に合わせて利便性を考えながらの推進を心がけている。
接客によるau経験
店舗での接客面では、ユーザーの要望に合わせた高い知識と心からの笑顔での応対を基本としている。他社のお客様が来店した場合でも、好印象を与えられるようにと想定した接客である。そのためにはマニュアルの充実と教育、ショップスタッフの増員、フロアアドバイザーの配置などの対策を随時行っている。またショップスタッフのモチベーションを上げるために「Smile!WIN(スマイルウィン)」という制度を実行したり、CS AWARDSでスタッフのレベルアップを推進。さらに、プロスタッフ、ハートフルスタッフなどの資格の取得を奨励して、セールススキルや接遇力の強化に努めている。
Smile!WIN
auは来店顧客に笑顔になっていただくために、スタッフが心からの笑顔になることを大事にしている。心からの笑顔になるには、スタッフが高い知識とマナーを持ち、自分自身がauのファンであると思えること。それを顧客に伝える一連の活動をSmile!WINと呼んでいる。