アドビは、デザインやコミュニケーションの制作現場では欠かすことが出来ない様々なソフトを開発提供している。これらのソフトは常に18ヶ月ごとにシステムのバージョンアップが繰り返され、そのたびにビジュアル表現が変わるため、イメージの拡散とネガティブなイメージを招いていた。2003年以降、Creative Suiteの発表を機に、クリエイティブプロフェショナル層が期待する「精緻・美・願望」をコアにした製品ブランド表現の統合を実施した。
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アドビ
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アドビのブランドチャレンジ
The Adobe Brand Challenge
2003年にアドビはCreative Suiteを発表した。これによってアドビの主軸であるクリエイティブプロフェッショナル製品をまとめあげ、同時にバージョンコントロールを管理するファイルマネジメントソフトVersionCueによって技術的にも統合した。同社はこの機をとらえて新しいプロダクトイメージをつくり、過去数年間にわたって新製品やアップグレード版の発売に対して拒否感をつのらせてきたクリエイティブプロフェッショナル層のユーザーに訴求しようと考えた。アドビはCreative Suiteのパッケージおよび関連マテリアルのデザインリニューアルによって、このソフィスティケートされた層との「情緒的な絆」を再構築するべく、メタデザインのサンフランシスコ事務所に仕事を依頼した。
戦略からスタイルがうまれる
デザインプロセスは、アドビのポジショニングステートメントを吟味することから始まった。
「アドビは革新的な技術プラットフォームによって、アイデア、情報、イメージ、洞察をつなぎあわせ、個人そしてビジネスの、より効果的、より魅力的なコミュニケーションをお手伝いします」。
ここから出発して、戦略的コンテクストの構築がはじまった。まずクリエイティブプロフェッショナル層の共感を呼ぶ特質として「精緻・美・願望」が提案された。これらの特質に生命を吹き込むために、自然の形態を精妙に表現した一連のビジュアルを使い、クリエイティブプロセスを比喩的に表現した。
Creative Suiteのパッケージデザインに加えて、アドビのBtoB領域、企業向けのサーバおよびIT関連アプリケーションにも新しい外観が与えられた。デザイン戦略は拡張され、「アドビ・スタイル・フレームワーク」として、同社の3つの顧客層であるクリエイティブプロフェッショナル、企業、そして一般消費者に向けて、各種の特質、表現、キーメッセージを揃えた。
企業ユーザーのための特質「協力・効率・価値」を表現するデザインシステムのベースとなったのは、安定感と無限の連結性をもつ六角形だ。同じ六角形が連続的に回転する画像のバリエーションを、様々な構図と色彩で見せることで、アドビの企業向けソフト製品の全ラインアップを表現するビジュアルが作られた。この比喩的ビジュアルによって、広い応用範囲をもち、カスタマイズや接続に耐える数多くの企業向けアプリケーションに統一性が与えられた。
ブランドの外観を拡張する
アドビはこの「アドビ・スタイル・フレームワーク」を活用して、その他の業務領域およびコミュニケーションの全体にわたる「姿・質感・トーン」を進化させようと考え、引き続きメタデザインに依頼した。この継続的なデザインコンサルティングによって、同社のビジュアル表現は徐々に一本化され、わかりやすいひとつのビジュアルアイデンティティが形成されつつある。
企業コミュニケーション
2003年版アニュアルレポートと、2004年の会社概要では、アドビの伝統文化と、「コミュニケーションのアートとテクノロジー」を顧客に届けるというビジョンがクローズアップされた。これらの目標達成に向けて「コミュニケーションの術によって、より効果的な伝達を可能にする」という焦点が定められた。これらの企業刊行物はアドビの市場における差別化を後押しし、アドビの提供する製品やソリューションへの認知度も高まった。
アニュアルレポートのために作られたのが「ファインディング・フォーカス」と呼ぶブランドフレームワークだ。このフレームワークによって、3つの主要顧客層に対し、明確な個別テーマが設定された。クリエイティブユーザーには「アイデアを伝える」、企業ユーザーには「情報を交換する」、そして一般消費者には「記憶を共有する」。これらのテーマを使い、シンプルで明快な文字と写真を通して、アドビが各顧客層に提供するものが表現された。
企業概要では、アニュアルレポートのテーマがさらに拡張して生かされた。明快な色彩、アプリケーションの使われ方を見せる説明的な写真、大きな文字によるステートメントによって、ダイナミックかつ先進的なブランドポジショニングを表現した。
新しいデザイン戦略とビジュアルに合わせて、同社Webサイトのホームページにもデザインリニューアルが施された。既存のホームページはごくシンプルな、たった1段のテキストと1点の画像だけに絞られたものだった。それではアドビの多岐にわたる製品を紹介するにも、ひんぱんに使われるAdobe Readerのボタンを目立たせるにも、そしてニュースや告知を掲載するにも不十分だった。新しいホームページのデザインは、重要なトピックを大きな画像とともに紹介し、その下に明快な階層に整理された情報が3段組みで続く。
デザインの拡張と更新
2005年にメタデザインは、アドビのデジタルビデオおよびオーディオソフト製品の外観をデザインした。映画、ビデオ、DVD、Web制作に、強力な支援を提供する製品群だ。ここではクリエイティブプロフェッショナルのための特質「精緻・美・願望」を反映させて、3DCGで描いた暗示的な抽象造形が編み出された。
アドビは18ヶ月ごとにクリエイティブ製品の新しいバージョンを発売する。最初のCreative Suiteが成功をおさめた後、2005年には、最初のデザイン戦略にもとづいたCreative Suite2のパッケージ外観デザインが、再びメタデザインに依頼された。
Creative Suite2のデザインでは「自然」というテーマを拡張し、X線写真を使って、目に見えないクリエイティブプロセスを比喩的に表現している。ロンドン在住のアーティスト、ニック・ヴィージィが、X線撮影用スタジオで撮った生のX線写真を加工、着色して、パッケージおよびアイコンのシステムに使われる画像を制作した。
出来上がった画像には、自然の造形を作り上げる数理的公式が読みとれる。貝殻や葉の形は、ひとつの成長パターンによって決定されるにもかかわらず、どれひとつとして同一のものはない。同じようにひとつのソフトウェアを使っても、人によって全く違った結果が生み出されるのだ。
Creative Suiteのパッケージおよびアドビのブランドビジュアルの成功は、深い洞察にもとづいたデザイン戦略がきっかけとなって、あらゆるコミュニケーションを横断して企業ブランドを再生させ、長期的な価値を作り出した事例となっている。
成果
2003年の第4半期に発表された最初のCreative Suiteは、自社予測とアナリスト予測をともにしのぐ売上を記録している。新しいブランドビジュアルの成功は、同社の評価額をも引き上げた。
2005年にCreative Suiteのパッケージは、最大の効果を上げたブランド再生プロジェクト6件のひとつとして、ReBrand100の特別賞を授与された。
2003年のアニュアルレポートは、誉れ高いBlack Bookの「アニュアルレポート100」に選出され、また2004年のLondon International Advertising and Design Awards(ロンドン国際広告・デザイン賞)の最終審査にも挙げられた。
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